ハードボイルドは痛い

てのひらの闇 (文春文庫)

てのひらの闇 (文春文庫)

日本の風土にはハードボイルドは合わないと書いた文章を以前読んだような気がする。そうかもしれない。ずるずるべったりの水平思考とハードボイルドは対極にあるし、日本の気候ではトレンチコートが着られる時期も限られてるしな。しかし、それとは別に関係なく、私はハードボイルドをほとんど読まない。10年くらい前には食指を伸ばしかけて翻訳物を中心に代表的な作品をいくつか読んでみたのだが、なにしろハードボイルドは痛いんである。たいてい主人公が肉体的に物理的に痛い目に遭うことが避けられない。しかもハードボイルドの文章ってのは文体もハードだからその描写が克明だったりして、読んでるほうも痛いことこの上ない。こっちが元気が有り余っているときだったらバーチャルに弱ることができていいのかもしれないが、疲れているときだと本当に読むのがつらかったりする。そしてそれを押して読んでも、最後はたいてい完全なハッピーエンドにはならない。雨のそぼ降る街に背中を丸めて消えていくような感じだったりして……ああすっきりしないのである。
で、それでも私が読むハードボイルドは、原りょう(やっぱりこの漢字出ない。『寮』のウ冠が無い字)とこの藤原伊織である。藤原伊織は『テロリストのパラソル』でほとんど一目惚れ、『ひまわりの祝祭』で絶対新刊は読むぞと誓いを新たにしたものの、寡作なんだな〜。長く会社員との兼業作家さんだったのを退職されたそうなので、これからはもう少しお目にかかれるでしょうか。
藤原伊織の作品も、やっぱり痛いは痛い。でもとにかく読み始めると止めることができないので、長編を一気に読んでしまう。文章力だなーと思う。そして、ハードボイルドだけど弱者に注ぐ視線も優しい。だから救われるのかもしれない。原題の『ホワイトノイズ』を改題した『てのひらの闇』は、誰にもある弱い部分を優しく見つめる視線を象徴しているようで、好ましい。
しかし、主人公のお父さん格好良すぎでしょう。万が一映画化されたら、高倉健以外この役できる人はいませんな。