期待し過ぎ
- 作者: 小川洋子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/11/26
- メディア: 文庫
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もともと、小川洋子の小説がすごく好きというわけではないのだった。「妊娠カレンダー」を読んだときも、すらっと読めるし嫌いじゃないけど次作を買おうとは思わない、という感じで少し私の好みとはズレているんだな。博士の描写はとてもよくできていると思う。一般の人にはほおお、と思えるのかもしれないが、私にとっては……こんな人、いっぱい知ってるんですけど……って感じで、やっぱり感想がずれていってしまうなあと我ながら思うのであった。
読んでいて、大学の先輩を思い出した。彼は私の一年年長で理学部数学科に籍を置く学生であったが、とにかく「変人」であった。大学の合唱団の先輩として初めて会ったのだが、「同じ学部ですね、現役合格なんて優秀ですね、僕は現役だけど補欠合格なんですよ」が第一声であり、灘高から補欠入学に至る経過を細々と説明してくれ始めたのでうぶな新入生の私はかなり面食らった。見た目も、二昔前の「不潔な学生」タイプで、髪はぼさぼさ眼鏡をかけて猫背でチェックのシャツと穴の開いたジーパンはいつ洗ったか不明で冬でもサンダル履きというイカ京*1をタイムスリップさせたような具合であった。彼が数学の徒として優秀だったのか否かは知らないが、数字を聞いた瞬間「それはこれとこれを足すとできるこういう数字ですね」というような言葉が口から漏れるという点が、この『博士』と同じだった。また、彼は強烈な美意識を持っていて美しいもの全般(もちろん女性含む)を愛していたが、その独創性でもって、さらに井上陽水を尊崇しドクター中松を信奉していた。サークル内のミニコンサートでは「しがないながし」*2と名乗って必ず陽水を歌ったものである。百万遍でドクター中松ジャンピングシューズを履いた彼に白昼「やあ、まるあさん」とにこやかに大声で本名を呼ばれ、ひええ勘弁してくれええと思ったこともあった。
という具合で、この小説は私にとってはあまりにノンフィクションに近い。『博士』を中心にした疑似家族のありようが、今の時代では一般的な家庭よりも濃密な、より本物らしい家庭の空気を漂わせているのも妬ましいようであり、微笑ましいフィクションとして読むにはあらゆる意味でちょっと痛かった。*3
とにかく期待が大きすぎたね。*4