シリーズ物の功罪

続巷説百物語 (角川文庫)

続巷説百物語 (角川文庫)

京極夏彦である。文庫になってからしか読まないので時流に乗り遅れていること甚だしいのだが、直木賞受賞作の「後巷説百物語」が気になりつつも順番にしか読めないのがちょっと悲しい。だいたい、シリーズ物の3つ目に賞をあげるってのは半端でないかい? その作品そのものを本当に評価しているのかどうかアヤシい感じがすると思うのはおかしいんだろうか。巷説百物語というシリーズ背景を抜きにしてシリーズ第三作を楽しみ評価できるはずないじゃん。今さら直木賞の価値を問うたって仕方ないわけなのですがどうにも信用ならないのである(でも芥川賞よりマシか)。
で、賞とは基本的に関係ない本作ですが、重くなっちゃったなあというのが第一印象か。前作でシリーズ一作目にあたる「巷説百物語」は、これで一冊なんですかっていう分厚さの長編が繰り出される京極堂シリーズにくらべると、そもそも短編集だし、又市の「仕掛け」で何かが解消されていく小気味よさが好みだったし、狂言回し役にあたる百介のキャラクターもどこか飄々としていて(特に京極堂シリーズの関口くんの自閉症キャラにくらべると)全般に軽かった。だが、本作はその「仕掛け」側の人物たちの過去が次々に語られて生身の身体を備えてしまっていく重さがまずある。さらに、メインの中編「死神」の救いようのない重さ(メイントリックもかなり大味である)。そして後日談として語られる最後の短編では、百介さんも結局その軽さを失っているではないか……。
シリーズとして展開するとどうしても奥行きとか深みを出すことになっていくのだろうから、メインの登場人物の人間描写が克明になっていかざるをえないんだろうけど、ここまで確信犯でそれをやられると「えっ、そこまでサービスしてくれなくても、謎のまんまでいいですう」という気持ちにもなってくる。しかもみんな暗くて救いようのない過去ばっかりだし。
この分で行くと「後巷説百物語」では又市の過去が詳らかに語られて老中との対決がメインの素材ということになるんだろうが、そんな「読めちゃってるよ〜」という先入観をひっくり返してくれるような驚くべき「仕掛け」をまだ期待しています。よっぽどの過去でないと「ふーんそう来たかあ」仕舞いになりそうでちょっとドキドキしますが、それでもまだ京極夏彦なら何かやってくれるんじゃないかという期待もあるわけです。といってももうできあがってるわけですが。「後」早く文庫にならないかにゃ〜。
それにしても「死神」で臨月妊婦が犠牲になるくだりは痛かった。そういうのが含まれている場合は「ローズマリーの赤ちゃん」のように「妊婦注意!」とかなんとか書いといておくれではないものでしょうか。無理か。