三田文学って上品なの?

サイレントリー (新潮文庫)

サイレントリー (新潮文庫)

年末に買ってそのまま読むのを忘れ積んであったものが発掘。どうやら「鈴木光司」というのに過剰にビビって後回しにしていたような気がするのだが、ぜーんぜんそんな必要はなかったことがよーくわかりました。上品だ。
「リング」って本当に怖かった。今でもくっきりと思い出せるのだが、延岡の借り上げマンション独身寮の一室で怖くて恐くて読みやめることもできないが身動きもままならず、狭いベッドの中でまだ背中に空間があるのに耐えられず、絶えず姿勢を変えながらベッドサイドの灯りだけで読み進んだあの恐怖……。あんな恐怖とエンタテインメントを同時に味わったのは後にも先にもあれっきりではないだろうか。なにしろ私は基本的に恐がりなのでホラーなんて読まないんである。なのにあれはなんで読む気になったのかそれはもう思い出せないのだが、でも読んでよかった。読み逃したら後悔するところだったと思う。でも今は(特に妊婦の今は)絶対読みたくないので、独身の元気な時でよかったなあ。
で、鈴木光司に一気にはまり著作を全部読んできたのであるが、最近は熱が冷めてきてしまったのである。だってやっぱりリングほどは面白くないんだもの。しかも、この人からホラーの要素を抜いたら、どうやらとっても上品でロマンチストで優男で恥ずかしくなっちゃうくらいナイーブなんだもんなあ。この各種要素の中でも群を抜いて濃度が濃いのが「ロマンチスト」であろうか。まーバイク乗りはロマンチストなもんだが、さらに彼はヨットにも乗るんである! 海の男なんだよーこれがロマンチストでなくてなんであろうか。
しかもこの短編集ではそういう彼の投影のような主人公の男性陣のナイーブな人生の断面が切り取られているのである。あー恥ずかしい。もちろん文章が充分に上手なので商品価値のある内容には仕上がっていると思うのだが、でもちょっと読んでいてもじもじにやにやしてしまう。あまりに毒がなく爽やかでロマンに満ちているのである。もちろんリアルな人生は毒がなく爽やかであるに越したことはない。私も一応そういう人生希望の平凡な人間ですが、だからこそフィクションには違うものを求めることもあるのである。とっても贅沢で我侭な希望だとは思うけど、鈴木光司さんのホラーじゃない種類の毒を、ちょっと読んでみたいなあ。